はじめに:なぜ「頻出論点」から入るのか
M&Aの実務に関わることになった方から、しばしば同じ質問を受けます。「まず何を勉強すればいいですか」。
この問いに対して、いきなり分厚い実務書を渡すのは、あまり親切ではありません。M&Aという領域は、会社法・金融商品取引法・独占禁止法・労働法といった法務、企業結合会計と組織再編税制、企業価値評価の理論、そしてPMIという経営管理の実践までを横断します。全体像を持たないまま個々の論点に踏み込むと、目の前の一本の木ばかりが大きく見えて、森の形が最後まで分からないということが起こります。
その点で、M&A実務系の検定試験は、意外なほど良い入り口になります。検定の出題範囲は、実務家が「この順序で、この深さまでは知っておいてほしい」と考える内容の最大公約数だからです。そして重要なのは、頻出論点とは「試験に出やすい論点」であると同時に、「実務で判断を誤りやすい論点」でもあるという点です。基本合意書に法的拘束力はあるのか、事業譲渡で許認可は引き継げるのか、EVと株式価値はどう違うのか——これらは受験生が落とす箇所であると同時に、実務でも取り違えると案件の設計そのものが狂う箇所です。
本記事では、M&A実務系の検定で繰り返し問われる論点を、実務上の意味づけとともに整理します。試験対策としてはもちろん、これからM&Aに関与する方が最初に押さえるべき「共通言語」の一覧としても使えるはずです。
第1章:M&A実務系の検定はひとつではない — まず地図を持つ
最初に、少し実務的な注意点を申し上げておきます。「M&A実務能力検定」という言い方は広く使われていますが、この名称の試験が一つだけ存在するわけではありません。実際には複数の団体が、M&Aの実務遂行能力を問う検定・認定制度をそれぞれ運営しています。受験を検討する際は、まず「自分が受けようとしているのはどれか」を確定させることが出発点になります。

代表的なものを整理すると、次のようになります。
事業承継・M&Aエキスパート認定資格は、一般社団法人金融財政事情研究会(金財)と株式会社日本M&Aセンターが共同で創設した制度で、入門から基礎レベルに位置づけられます。受験資格はなく、CBT方式で120分、四答択一式30問と総合問題10題、100点満点で70点以上が合格。受験料は7,700円(税込)です。なお、この試験は金財の「金融業務2級 事業承継・M&Aコース試験」と同一のもので、二つの名称が併用されています。試験範囲は「事業承継関連税制等」「事業承継関連法制等」「M&A基礎知識・関連会計」「M&A関連法制等」「総合問題」の5科目です。
その上位に位置するのがM&Aシニアエキスパート認定資格です。Web講義の受講には、事業承継・M&Aエキスパート認定者であること、弁護士・税理士・公認会計士・司法書士のいずれかであること、あるいは銀行・信用金庫等での法人営業経験が5年以上あること、といった要件が課されます。試験はCBT方式で120分、四答択一式50問、100点満点で60点以上が合格、受験料11,000円(税込)。カリキュラムはM&A実務、M&A評価、会計・税務、企業評価概論に及び、関連資格のなかでも難易度が高い部類に入ります。
M&Aスペシャリスト資格は、日本経営管理協会(JIMA)が認定するもので、中堅・中小企業の事業承継における合併・買収・事業譲渡のスペシャリスト人材の育成を目的としています。受験資格はなく、試験時間120分で一般知識問題と論述問題が課され、それぞれ60%以上で合格。受験料11,000円に加えて支援講座77,000円がかかります。論述問題があるのがこの資格の特徴で、知識を持っているだけでなく、それを構成して説明できるかが問われます。支援講座は「中小企業M&A支援の現場とスキーム」「デューデリジェンスの実務」「企業価値評価」「クロージングとアフターM&A」「M&A事例研究」という構成です。
このほか、一般社団法人日本M&Aアドバイザー協会(JMAA)の認定M&Aアドバイザーは、養成講座の受講と協会への入会を前提とする実践型の制度で、費用も受講198,000円に入会金等が加わる水準になります。
主催団体も難易度も異なりますが、上図の下段に示したとおり、問われる知識の骨格はほぼ共通しています。①M&Aプロセス、②スキーム(手法)、③企業価値評価、④デューデリジェンス、⑤会計・税務、⑥法務・契約、⑦公的制度とPMI——この7領域です。以下、このうち出題頻度と実務上の重要度がとりわけ高いものを順に見ていきます。
第2章:頻出論点① M&Aプロセス — 「どの書面が、いつ、どんな効力を持つか」
プロセスに関する出題は、単に段階の名前を順番に並べさせるものではありません。「どの書面が、どの段階で、どんな効力を持つか」——ここに集中します。

最も出題頻度が高いのは、基本合意書(LOI/MOU)の法的拘束力です。結論から言えば、基本合意書は原則として法的拘束力を持ちません。買収価格やスキームについて合意しても、それは最終契約に向けた中間確認にすぎず、後のデューデリジェンスの結果次第で条件は変わりうる。だからこそ拘束力を持たせないのが原則です。
ただし例外があります。①秘密保持義務、②独占交渉権、③費用負担、④誠実交渉義務——この4つについては、拘束力を持たせるのが通例です。独占交渉権に拘束力がなければ、売り手が並行して他の買い手と交渉することを止められず、買い手が多額の費用をかけてDDを実施する意味が失われてしまうからです。
したがって、試験で「基本合意書には全体として法的拘束力がある」という選択肢も、「基本合意書には一切法的拘束力がない」という選択肢も、いずれも誤りです。「原則としてない。ただし一部の条項にはある」という構造で覚えてください。実務でも、基本合意書のドラフトを受け取ったらまず確認すべきは、どの条項に拘束力を持たせる旨が書かれているかです。
意向表明書と基本合意書の違いも定番です。意向表明書は買い手が単独で差し入れる書面であり、希望価格・スキーム・スケジュール・資金調達方法などを記載します。これに対して基本合意書は双方が締結する書面です。「単独で差し入れるか、双方で締結するか」という違いを押さえておけば取り違えません。
情報開示の順序も問われます。秘密保持契約(NDA)→ ノンネームシート(社名を伏せた概要)→ 企業概要書(IM)の順に開示が深まっていきます。ノンネームシートは、業種・地域・規模といった特定につながらない情報のみを記載した1枚もので、買い手候補に打診する最初の資料です。IMは売り手側が作成する詳細資料で、これを開示する前にはネームクリア——すなわち買い手候補から社名開示の同意を得る手続——が必要になります。この点は後述する中小M&Aガイドライン第3版で明確化された論点でもあります。
クロージング段階では、前提条件(CP:Conditions Precedent)の中身が問われます。表明保証の正確性、誓約事項の履行、許認可の取得、独占禁止法上のクリアランス、チェンジ・オブ・コントロール条項に基づく取引先の承諾、そして重大な悪影響(MAC)の不発生。これらが揃って初めてクロージングが実行されます。CPは「契約締結からクロージングまでの間に何が起きたら実行しなくてよいか」を定めた安全装置であり、この期間の長さがそのままリスクの長さになります。
第3章:頻出論点② スキーム選択 — 「包括承継か個別承継か」がすべての起点
スキームに関する出題は、暗記量が多く見えて受験生を圧倒しがちです。しかし、起点となる一つの軸を押さえれば、残りの答えは芋づる式に決まります。その軸が「包括承継か、個別承継か」です。

株式譲渡は、会社の株主が入れ替わるだけで、会社そのものは何ら変わりません。契約も許認可も従業員も、会社に紐づいたまま残る——これが包括承継です。手続も譲渡承認と株主名簿の書換えで足り、最も簡便です。その代わり、簿外債務も一緒に承継します。中小M&Aで株式譲渡が最も多く用いられる一方、財務・法務DDが重視されるのはこのためです。
対照的に事業譲渡は、資産・負債・契約を一つずつ移す個別承継です。ここから、試験で問われる論点がすべて導かれます。契約が個別に移るということは、取引先や賃貸人の同意が個別に必要だということ。許認可は会社に付与されたものであって事業に付いてくるわけではないから、買い手が原則として再取得しなければならない。負債も個別に選べるから、簿外債務を遮断できる——これが事業譲渡の最大の利点です。そして資産の売買である以上、課税資産には消費税が課される。建物・棚卸資産・ソフトウェア・のれん(営業権)は課税資産、土地・有価証券・売掛金等の債権は非課税資産です。株式譲渡は有価証券の譲渡ですから消費税は非課税である、という対比も頻出します。
事業譲渡でもう一つ落としやすいのが、会社法21条の競業避止義務です。譲渡会社は、別段の定めがない限り、同一および隣接する市町村の区域内において、譲渡日から20年間、同一の事業を行ってはならないとされています。この「20年」という数字は数値問題として出やすいところです。
会社分割は、事業を単位として包括承継させる手法です。包括承継ですから許認可も業種によっては引き継げますが(個別法の確認は必要です)、その代わり債権者保護手続が必要になり、労働契約承継法に基づく従業員への協議・通知の手続も課されます。「簡便さと引き換えに手続が重くなる」という関係を意識すると整理しやすくなります。
株式交付も近年の頻出論点です。令和3年施行の改正会社法で創設された制度で、買い手が自社株式を対価として対象会社を子会社化する際に用います。よく問われるのが株式交換との違いで、株式交換は対象会社を100%子会社にする制度であるのに対し、株式交付は過半数の取得で足りる点が決定的に異なります。現金を用意せずに、しかも完全子会社化までは目指さずに買収したい場合の選択肢として整備されたものです。
第4章:頻出論点③ 企業価値評価 — EVと株式価値を混同しない
企業価値評価は、計算問題が出る領域であるだけに、対策の費用対効果が高いところです。

まず3つのアプローチを、「何を基準に測るか」で区別します。コストアプローチは純資産というストックを基準にし、簿価純資産法・時価純資産法・年買法・清算価値法が属します。マーケットアプローチは類似する他社や他の取引事例を基準にし、類似会社比準法(マルチプル法)・類似取引比準法・市場株価法が属します。インカムアプローチは将来のキャッシュフローを基準にし、DCF法・収益還元法・配当還元法が属します。手法名を丸暗記するより、この「基準」の違いで束ねたほうが確実に定着します。
中小企業のM&A実務では、時価純資産に営業利益の2〜5年分を加算する年買法が根強く用いられます。理論的な精緻さではDCF法に劣りますが、当事者にとって分かりやすく、事業計画の恣意性に左右されないという実務的な利点があるためです。一方、マーケットアプローチで最も使われるのはEV/EBITDA倍率であり、EBITDAは営業利益に減価償却費を加えたもの——この定義は即答できるようにしておくべき基本です。
そして計算問題で最も頻繁に問われるのが、事業価値(EV)から株式価値への「橋渡し」です。上図の下段に数値例を示しました。正常化EBITDA3.0億円に類似会社の倍率6.0倍を乗じて事業価値18.0億円。ここに非事業用資産(遊休不動産や投資有価証券)2.0億円を加え、ネットデット(有利子負債12.0億円−現預金5.0億円=7.0億円)を控除して、株式価値13.0億円。
EVがそのまま株主の受け取る対価になるわけではない——この一点を押さえてください。EVは事業そのものの価値であり、そこには債権者の取り分が含まれています。株主が受け取れるのは、債権者に返すべきものを返した後の残りです。ネットデットの控除を忘れて18億円と答えてしまうのが、計算問題の定番の落とし穴です。
なお、実務ではここからさらに調整が入ります。支配権を取得する取引であればコントロールプレミアムを加算し、非上場株式であれば換金の難しさを反映して非流動性ディスカウントを減算します。これらの調整項目の名称と方向(加算か減算か)も出題対象です。
第5章:頻出論点④ 会計・税務 — 「20年」「5年」「10%」を取り違えない
会計・税務は、数字を伴う論点が多く、しかもその数字が似ているために取り違えが起こりやすい領域です。ここは腰を据えて整理する価値があります。
最頻出はのれんの償却期間です。会計と税務で扱いが異なります。
| 会計(日本基準) | 税務 | |
|---|---|---|
| 名称 | のれん | 資産調整勘定 |
| 償却 | 20年以内の一定の年数で規則的に償却 | 5年(60ヶ月)で均等償却 |
| 根拠 | 企業結合会計基準 | 法人税法62条の8 |
| 減損 | 減損の対象となる | 減損という概念はない |
さらに、IFRSではのれんを償却せず、毎期の減損テストのみを行います。「日本基準は20年以内で償却、IFRSは非償却」という対比も定番です。
もう一つ、のれんに関して見落とされやすい論点があります。株式譲渡では、単体の貸借対照表にのれんは計上されません。株式譲渡で買い手が取得するのは株式という有価証券であり、投資勘定として計上されるだけだからです。のれんが姿を現すのは連結財務諸表の作成時であり、単体でのれんが計上されるのは事業譲渡や非適格合併といった、資産・負債を直接取得する取引に限られます。「M&Aをすれば必ずのれんが出る」という思い込みは、試験でも実務でも修正しておくべきものです。
組織再編税制では、適格要件の3類型が問われます。①100%グループ内の再編、②50%超100%未満のグループ内の再編、③共同事業を営むための再編——それぞれ要求される要件が異なり、支配関係が薄いほど要件は厳しくなります。適格であれば資産は簿価で引き継がれ課税が繰り延べられますが、非適格であれば時価取引として譲渡損益が認識されます。
これに連動するのが繰越欠損金の引継ぎ制限です。適格合併であれば被合併法人の繰越欠損金を引き継げるのが原則ですが、無条件に全額を引き継げるのは、合併事業年度開始の日の5年前から支配関係が継続している場合に限られます。制限を外すには「みなし共同事業要件」を満たす必要があります。買収価格の算定に繰越欠損金の効果を織り込むのであれば、ストラクチャーを決める前にこの検証が要る、という実務感覚まで含めて理解しておきたい論点です。
税率に関しては、個人株主の株式譲渡益に対する20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)の申告分離課税が基本です。法人株主の場合は譲渡益が益金に算入され、通常の法人税率が適用されます。事業譲渡の場合、対価を受け取るのは会社ですから、譲渡益は法人税の課税対象となり、さらにそれを株主に分配する段階で配当課税が生じうる——いわゆる二重課税の問題も、スキーム選択の論点として出題されます。
M&Aを後押しする税制としては、中小企業事業再編投資損失準備金(経営資源集約化税制)があります。経営力向上計画に基づく従来の制度では、株式等の取得価額(10億円以下)の70%を上限に準備金として損金算入できました。令和6年度税制改正では、産業競争力強化法の特別事業再編計画の認定を受けた場合について、最初に取得した株式等は90%、それ以外は100%を積み立てられる制度へと拡充されています(取得価額が100億円超または1億円未満の場合等は除外)。数字が複数出てくるところなので、制度の枠組みと併せて押さえておいてください。
第6章:頻出論点⑤ 公的制度とガイドライン、そして直前チェックリスト
近年の検定で明確に比重が増しているのが、中小企業庁を中心とする公的制度・ガイドラインに関する出題です。M&A市場の拡大——レコフデータの集計では2025年(1〜12月)の日本企業のM&A件数は5,115件と初めて5,000件を超え、2年連続で過去最多を更新しました——に伴って、支援の質を担保する制度が急速に整備されてきたことが背景にあります。
中小M&Aガイドラインは2020年3月に策定され、2023年9月の第2版を経て、2024年8月30日に第3版が公表されました。不適切な買い手による被害、経営者保証をめぐるトラブル、M&A専門業者による過剰な営業・広告といった問題を受けての改訂であり、主な改訂項目は次の7つです。①手数料・提供業務の透明化(手数料体系の詳細説明、担当者の資格・経験年数・成約実績の開示)、②広告・営業活動の規律(相手の希望に反する営業の停止、勧誘目的を秘した営業の禁止)、③利益相反行為の禁止、④ネームクリア・テール条項の規律、⑤最終契約後のリスク説明、⑥経営者保証への対応、⑦不適切な買い手の排除。
これと一体で理解すべきなのがM&A支援機関登録制度です。2021年8月に創設された制度で、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言することが登録の要件となっています。2025年4月時点で約2,952者が登録されており、事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用枠)の対象となるのは、登録支援機関に支払う手数料に限られるという点が、制度の実効性を支えています。ガイドラインと登録制度と補助金が三位一体になっている構造を押さえておくと、関連問題をまとめて処理できます。
PMIについては、2022年3月に策定された中小PMIガイドラインが出題の基礎になります。押さえるべきは、PMIの取組が「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」の3領域に整理されていること、そしてPMIはM&A成立後に始めるものではなく、成立前から準備するものであり、成立後100日までを第一の山場と位置づけていることです。「M&A成立後に着手する」という選択肢は誤りになります。
事業承継税制も要注意です。法人版事業承継税制(特例措置)について、特例承継計画の提出期限は2026年3月31日から2027年9月30日へ延長されました(個人版は2028年9月30日へ)。ここで必ず問われるのが、適用(実行)期限は延長されていないという点です。2027年12月31日までに贈与・相続を実行しなければ特例措置は適用されません。「計画の提出期限」と「実行の期限」は別物である——この区別が、そのまま引っかけ問題になります。

上図は、ここまで扱った論点を5つのカテゴリに整理した直前チェックリストです。試験前日に眺めて、一項目ずつ「人に説明できるか」を自問してみてください。選択肢を見て正解を選べることと、白紙から説明できることの間には、思いのほか大きな隔たりがあります。論述式を課すM&Aスペシャリスト資格を受験する方はもちろん、択一式の試験であっても、説明できる状態まで持っていった論点は本番で崩れません。
なお、試験制度・出題範囲・受験料は改定されることがあります。本記事の内容は執筆時点で公表されている情報に基づくものですので、受験の際は必ず各実施団体の公式サイトで最新情報をご確認ください。
おわりに:検定は「実務の共通言語」を手に入れる装置
M&A関連の検定について、「資格を取っただけでは実務はできない」という指摘をよく耳にします。それはそのとおりです。実際の案件では、対象会社ごとに事情が異なり、教科書どおりに進むディールなど一つもありません。検定に合格したからといって、いきなりアドバイザーが務まるわけではないでしょう。
しかし、だから意味がないということにはなりません。M&Aは、売り手・買い手・仲介者・弁護士・会計士・税理士・金融機関という、驚くほど多様な関係者が同時に動くプロジェクトです。そこで「ネームクリアはまだですか」「CPの充足状況を確認しましょう」「ネットデットの定義を契約書で詰めておきましょう」といった会話が成立するかどうかは、案件の進行速度そのものを左右します。検定の頻出論点とは、この共通言語の語彙リストにほかなりません。
そしてもう一つ。本記事で見てきた頻出論点は、そのほとんどが「取り違えると判断が狂う」ものでした。基本合意書に全体として拘束力があると思い込めば、交渉の自由度を必要以上に狭めます。事業譲渡で許認可が自動的に引き継がれると考えていれば、クロージング後に事業が止まります。EVと株式価値を混同すれば、価格交渉の出発点そのものが誤ります。試験に出るから重要なのではなく、実務で誤りやすいから試験に出るのです。この順序で捉え直すと、検定の勉強は途端に実務的な意味を帯びてきます。
これからM&Aに関与される方にとって、検定の受験は、断片的な知識を一度体系に並べ直す良い機会になります。合格そのものより、そこで手に入れた地図のほうが、おそらく長く役に立つはずです。

