【企業価値評価】正常収益力の算出方法と調整項目:M&A実務における実践的アプローチ

目次

はじめに

M&A市場の拡大に伴い、企業価値評価の精度向上がますます重要となっています。その中核を成すのが「正常収益力」の概念です。正常収益力とは、企業が継続的に生み出すことができる真の収益力を表現する指標であり、一時的・非経常的な要因を排除した企業の本質的な「稼ぐ力」を示します。

例えば、ある製造業の企業が前年度に自然災害で工場が被災し、2,000万円の修繕費が発生したとします。この費用は企業の通常の営業活動から生じたものではなく、将来的に継続して発生することは期待されません。正常収益力分析では、このような一時的な費用を除外することで、企業の真の収益力を把握します。

本記事では、会計士の勉強をしている方々やM&A実務者を対象に、正常収益力の算出方法と調整項目について、実際の数値例を用いながら実務的観点から詳しく解説します。

正常収益力とは何か

基本概念と定義

正常収益力は「対象企業が今後も継続して見込める真の収益」として定義されます。これは単なる会計上の利益ではなく、企業の持続的な競争力と収益創出能力を反映した指標です。

具体例で考えてみましょう。IT企業のC社の直近3年間の営業利益推移を見てみます。

年度営業利益特別要因正常収益力ベース
2021年度8,000万円8,000万円
2022年度12,000万円特別プロジェクト+4,000万円8,000万円
2023年度9,000万円9,000万円

単純に平均すると9,667万円となりますが、2022年度の特別プロジェクトは一回限りのものです。正常収益力分析では、この特別要因を除外し、継続的な収益力として8,500万円程度と評価することになります。

EBITDAとの関係

実務では、EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization:利息・税金・減価償却費控除前利益)を基礎として正常収益力を算出します。日本の会計基準では「営業利益+減価償却費」として計算されることが一般的です。

EBITDAを使用する理由は以下の通りです:

  1. 資本構成の違いを排除:利息費用は企業の資本構成(借入金と自己資本の比率)によって決まるため、事業の収益力とは直接関係ありません
  2. 税制の影響を排除:税金は国や地域の税制によって異なるため、事業の本質的な収益力を比較する際には除外します
  3. 会計方針の違いを排除:減価償却方法や償却年数は企業の会計方針によって異なるため、キャッシュベースでの収益力を把握します

正常収益力算出の実際

実際の企業を例に、正常収益力の算出プロセスを見てみましょう。

D社(従業員100名の部品製造業)の例

項目金額(万円)調整理由
営業利益15,000基礎数値
減価償却費3,000加算
調整前EBITDA18,000基準値
台風被害修繕費+2,000一時的費用として加算
特別受注売上-3,000一時的収益として減算
社長過大報酬+1,000市場水準との差額
調整後EBITDA18,000正常収益力

この例では、調整前後でEBITDAに変化がありませんが、実際には各調整項目を詳細に検討することで、企業の真の収益力を把握することができます。

企業価値評価手法における正常収益力の役割

正常収益力は、主要な企業価値評価手法すべてにおいて重要な役割を果たします。

DCF法での活用

DCF(Discounted Cash Flow)法では、将来の自由キャッシュフロー(FCF)を現在価値に割り引いて企業価値を算定します。正常収益力は、この将来FCF予測の重要な基礎となります。

E社の正常収益力分析結果を基にした将来FCF予測

項目金額(万円)計算根拠
調整後EBITDA20,000正常収益力分析結果
減価償却費控除-4,000EBITDAに含まれるため
税引前利益16,00020,000 – 4,000
税金-4,80016,000 × 30%
税引後利益11,20016,000 – 4,800
減価償却費加算+4,000キャッシュフローに戻す
設備投資-3,000年平均投資額
運転資本増加-1,000年平均増加額
自由キャッシュフロー11,200FCF予測の基礎

このように、正常収益力から導かれた調整後EBITDAを基礎として、将来の自由キャッシュフローを予測し、企業価値を算定します。

類似企業比較法での活用

類似企業比較法では、上場している類似企業のEV/EBITDA倍率を評価対象企業に適用して企業価値を算定します。

F社の企業価値算定例

項目数値備考
類似企業平均EV/EBITDA倍率8.5倍上場類似企業の平均
F社調整後EBITDA15,000万円正常収益力分析結果
企業価値127,500万円15,000万円 × 8.5倍

ここで重要なのは、上場企業のEBITDAと評価対象企業のEBITDAが比較可能な水準で算出されていることです。特に中小企業では、オーナー企業特有の調整項目(過大な役員報酬、個人的支出の混入等)を適切に調整することで、上場企業との比較可能性を確保する必要があります。

時価純資産法での活用

時価純資産法では、企業の純資産を時価評価した上で、営業権(のれん)を加算して企業価値を算定します。営業権の算定において正常収益力が活用されます。

G社の営業権算定例

項目金額(万円)計算根拠
時価純資産50,000資産・負債の時価評価後
調整後EBITDA12,000正常収益力
営業権倍率3年業界標準
営業権36,00012,000万円 × 3年
企業価値86,00050,000万円 + 36,000万円

営業権倍率は業界や企業の成長性によって異なりますが、一般的には2~5年程度が用いられます。

正常収益力の算出方法:6ステップ・プロセス

正常収益力の算出は、以下の6つのステップに従って体系的に実施します。各ステップでの具体的な作業内容と判断ポイントを詳しく解説します。

ステップ1: EBITDA算出

まず、損益計算書から基礎となるEBITDAを算出します。日本の会計基準では「営業利益+減価償却費」として計算します。

H社(小売業)の基礎EBITDA算出例

損益計算書項目金額(万円)備考
売上高500,000
売上原価350,000
売上総利益150,000
販売費及び一般管理費120,000
うち減価償却費8,000EBITDA算出に使用
営業利益30,000
EBITDA38,000営業利益 + 減価償却費

月次推移分析の重要性

単年度のEBITDAだけでなく、月次推移を分析することで季節変動や一時的変動要因を特定します。

H社の月次EBITDA推移(2023年度)を見ると、明確な季節性があることが分かります:

EBITDA(万円)特徴
4-6月各3,000通常期
7-8月各5,000夏季商戦
12月8,000年末商戦
1-3月各2,000閑散期

この分析により、H社の事業には明確な季節性があることが分かります。正常収益力を算出する際は、この季節性を考慮した年間平均値を用いる必要があります。

ステップ2: 会計基準統一

複数年度を比較分析する場合、会計処理方針の変更による影響を調整し、一貫した基準での比較を可能にします。

I社の減価償却方法変更による調整例

I社は2022年度に減価償却方法を定率法から定額法に変更しました。比較可能性を確保するため、過去の数値を定額法で再計算します。

年度方法営業利益(万円)減価償却費(万円)EBITDA(万円)修正後EBITDA(万円)
2021年度定率法25,00012,00037,00039,000
2022年度定額法28,00010,00038,00038,000
2023年度定額法30,00010,00040,00040,000

定額法で統一した場合の修正後EBITDAにより、3年間の一貫した比較が可能となります。

ステップ3: 特殊事象把握

評価対象期間中に発生した特殊事象や環境変化の影響を詳細に分析します。

J社(製造業)のコロナ禍影響分析

J社の2020-2023年度EBITDA推移を分析し、コロナ禍の影響を除外した正常収益力を算出します。

年度EBITDA(万円)特殊要因正常化後(万円)
2020年度15,000コロナ禍影響22,000
2021年度18,000回復途上22,000
2022年度22,000正常化22,000
2023年度23,000正常化23,000

コロナ禍の影響を除外した正常収益力として、2022-2023年度の平均である22,500万円を採用します。

ステップ4: 一時的項目調整

一時的・非経常的な損益項目を特定し、調整を行います。

K社(サービス業)の一時的項目調整

K社の2023年度特殊項目について、上記フローチャートに従って調整の要否を判定します。

項目金額(万円)発生頻度事業関連性判定調整額(万円)
本社移転費用3,00010年に1回間接的一時的+3,000
システム刷新費用5,0005年に1回直接的部分調整+4,000
創業記念特別賞与2,000一回限り無関係一時的+2,000
不動産売却益8,000一回限り無関係一時的-8,000

システム刷新費用については、過去実績(年平均1,000万円)を考慮し、超過部分4,000万円のみを調整対象としています。

調整計算結果

項目金額(万円)
調整前EBITDA25,000
本社移転費用+3,000
システム刷新費用(超過分)+4,000
創業記念特別賞与+2,000
不動産売却益-8,000
調整後EBITDA26,000

ステップ5: 特別項目調整

営業外損益や特別損益に計上されている項目の中で、実質的に経常的な性格を有するものを営業損益に組み替えます。

L社(商社)の営業外損益組み替え分析

L社の営業外損益について、上記フローチャートに従って組み替えの要否を判定します。

項目金額(万円)事業関連性継続性判定組み替え額(万円)
受取利息500無関係継続組み替えなし0
受取配当金2,000高い継続営業収益へ+2,000
為替差益1,500高い継続営業収益へ+1,500
支払利息3,000無関係継続組み替えなし0
為替差損800高い継続営業費用へ-800

組み替え後の営業損益への純影響額は+2,700万円となります。

ステップ6: M&A関連調整

M&A実行後の事業運営を前提として、現在の損益構造から変化が予想される項目について調整を行います。

M社(オーナー企業、製造業)のM&A関連調整

現在の役員報酬等の状況を市場相場と比較し、M&A後の変化を見込んだ調整を行います。

調整項目現状(万円)適正水準(万円)調整額(万円)根拠
社長報酬3,6002,400+1,200同規模企業相場との比較
個人的車両費用3000+300事業関連性なし
個人的旅行費用2000+200事業関連性なし
合計+1,700

最終的な正常収益力算出例

M社の正常収益力算出結果をまとめると以下のようになります。

項目金額(万円)改善率
調整前EBITDA18,000
一時的項目調整+800
特別項目調整+1,200
M&A関連調整+1,700
調整後EBITDA21,700+20.6%

この例では、適切な調整により正常収益力が20%以上改善されており、M&A価格に大きな影響を与えることが分かります。

調整項目の分類と具体例:実務での見つけ方

調整項目を適切に特定することは、正常収益力分析の成否を左右する重要なポイントです。ここでは、実務でよく遭遇する調整項目を体系的に分類し、それぞれの見つけ方と処理方法を詳しく解説します。

一時的・非経常的損益の調整

発見方法と分析手順

一時的・非経常的損益を発見するためには、以下の手順で分析を進めます:

  1. 損益計算書の科目別分析:前年同期比で大幅に増減している科目を特定
  2. 総勘定元帳の詳細確認:金額の大きい仕訳の内容を個別確認
  3. 月次推移分析:特定月に異常値を示している項目を特定

N社(建設業)の台風被害調整例

2023年9月の台風により、N社の建設現場で以下の被害が発生しました。

被害項目金額(万円)会計処理調整判定調整額(万円)
仮設建物の損壊1,500特別損失一時的費用+1,500
建設機械の修理800修繕費部分調整+500
工事遅延による追加人件費1,200労務費一時的費用+1,200
保険金収入2,000特別利益一時的収益-2,000
純調整額+1,200

建設機械の修理費については、通常の修繕費(年300万円)を超える部分500万円のみを調整対象としています。

会計処理上の調整

発見方法

会計処理上の調整項目を発見するためには、以下の点を確認します:

  1. 会計方針の変更履歴確認:注記事項で会計方針変更を確認
  2. 引当金の妥当性検証:設定基準と実績の比較
  3. 収益認識基準の適用状況:新基準適用による影響の確認

P社(卸売業)の会計処理見直し例

P社では以下の会計処理の見直しを実施しました。

見直し項目現状適正処理調整額(万円)根拠
貸倒引当金売掛金の3%売掛金の0.8%+1,200過去5年の貸倒実績
棚卸資産評価最終仕入原価法移動平均法+300比較可能性の確保
収益認識出荷基準着荷基準-150新基準への統一

M&A実行により変化する損益項目

オーナー企業特有の調整項目

オーナー企業では、経営者の個人的な事情が会社の損益に影響を与えている場合があります。M&A後はこれらの要因が解消されるため、適切な調整が必要です。

R社(サービス業)のオーナー関連調整

R社(従業員50名、IT企業)について、以下のオーナー関連調整を実施しました。

調整項目現状(万円)適正水準(万円)調整額(万円)根拠
社長報酬2,4001,800+600同規模IT企業相場
高級車リース料2400+240個人的使用
家族携帯電話代360+36個人的支出
個人的書籍購入240+24個人的支出
関連会社外注費1,200900+300市場価格との差額
残業代適正化0480-480労働基準法遵守
賞与水準改善0600-600従業員処遇改善
純調整額+120

中小企業特有の調整項目

節税対策の影響除去

中小企業では節税を目的とした支出が多く見られます。これらの支出の事業必要性を検証し、適切な調整を行います。

T社(製造業)の節税関連調整

調整項目現状(万円)適正水準(万円)調整額(万円)根拠
生命保険料1,800600+1,200事業リスク対応分のみ
交際費960480+480同業他社平均(売上高の0.6%)
社員旅行費用600300+300同規模企業相場
賃借料2,4001,800+600近隣相場との比較
合計調整額+2,580

この調整により、T社の調整前EBITDA 12,000万円が調整後14,580万円となり、21.5%の改善効果が得られました。

調整項目特定のチェックリスト

実務で調整項目を見落とさないために、以下のチェックリストを活用します:

確認項目チェックポイント発見方法
損益計算書分析前年同期比で大幅増減している科目増減分析表の作成
月次推移分析特定月に異常値を示している項目月次推移グラフの作成
総勘定元帳確認金額の大きい個別仕訳の内容仕訳日記帳の精査
注記事項確認会計方針変更、偶発債務等財務諸表注記の詳細確認
税務申告書確認申告調整項目、別表四の内容税務申告書との突合
稟議書・議事録重要な意思決定事項社内資料の確認
銀行取引明細帳簿に計上されていない取引預金通帳との突合

実務上の留意点と注意事項

正常収益力分析を成功させるためには、理論的な理解だけでなく、実務特有の課題と対処法を理解することが重要です。

調整項目の判定における実務的課題

グレーゾーンの判定方法

実務では、明確に一時的・経常的と判定できない「グレーゾーン」の項目が多く存在します。このような項目については、定量的分析と定性的分析を組み合わせた総合的な判定が必要です。

U社の広告宣伝費判定例

U社(小売業)の広告宣伝費について、グレーゾーン判定のプロセスを示します。

年度広告宣伝費(万円)特殊要因
2019年度1,200通常年
2020年度800コロナ禍で削減
2021年度2,500新店舗オープン
2022年度1,800ブランド強化
2023年度3,000創業記念キャンペーン

判定プロセス

  1. 定量分析
    • 平均値:1,860万円
    • 標準偏差:884万円
    • 2023年度は平均+1.3σ(やや異常値)
  2. 定性分析
    • 創業記念は10年に1回の特別企画
    • ブランド強化は継続的な戦略
    • 新規出店計画も継続予定
  3. 総合判定
    • 基準額:1,800万円(2019年、2022年の平均)
    • 調整額:1,200万円(3,000万円-1,800万円)

売主・買主の視点の違いと合意形成

利害対立の構造理解

M&Aにおける正常収益力分析では、売主と買主の利害が対立する構造となっています。

V社のM&A交渉における合意形成例

V社のM&A交渉において、以下の調整項目について売主・買主間で見解が分かれました。

調整項目売主主張買主主張合意内容
システム開発費全額調整(2,000万円)調整なし超過部分のみ調整(1,200万円)
特別賞与全額調整(1,500万円)調整なし超過部分のみ調整(1,000万円)

合意形成のポイントは以下の通りです:

  • 客観的データに基づく議論
  • 第三者専門家の意見活用
  • 段階的な妥協案の検討

月次決算の重要性とLTM分析

LTM(Last Twelve Months)分析の実務

最新の業績動向を反映するため、直近12ヶ月の実績を用いた分析が重要です。

W社のLTM分析例

W社(2024年3月決算)の2024年9月時点でのLTM分析を実施しました。

EBITDA(万円)累計(万円)
2023年10月1,2001,200
2023年11月1,1002,300
2023年12月1,8004,100
2024年1月9005,000
2024年2月9505,950
2024年3月1,3007,250
2024年4月1,1508,400
2024年5月1,2009,600
2024年6月1,25010,850
2024年7月1,40012,250
2024年8月1,35013,600
2024年9月1,30014,900

LTM EBITDA:14,900万円(前年度14,200万円から+4.9%改善)

月次決算精度向上のポイント

LTM分析の精度を向上させるためには、以下の点が重要です:

  1. 継続記録法による棚卸管理:月次での正確な売上原価把握
  2. 経費の月次計上:未払費用の適切な見積計上
  3. 減価償却費の月次計上:設備投資の月次反映

専門家活用の重要性

公認会計士の専門性活用

正常収益力分析には高度な専門知識が必要であり、適切な専門家の活用が不可欠です。

X社の専門家活用事例

X社(製造業、売上高30億円)のM&A案件において、以下の専門家を活用しました。

専門家役割成果
財務DD担当公認会計士正常収益力分析の実施調整項目の漏れなき特定
税務DD担当税理士税務リスクの評価税務調整項目の特定
法務DD担当弁護士契約関係の確認労務関連調整項目の確認

この結果、客観的で説得力のある分析が実現し、売主・買主間の円滑な合意形成が可能となりました。

ケーススタディ:業種別の実践的分析

理解を深めるために、製造業とサービス業の具体的な事例を通じて、正常収益力分析の実践的な適用方法を解説します。

製造業の事例:精密部品製造業Y社

企業概要

項目内容
従業員数120名
主力製品自動車部品、産業機械部品
売上高18億円
株主構成創業者(現社長、68歳)が85%保有
M&A目的事業承継

財務概要(直近3年平均)

項目金額(万円)比率
売上高180,000100.0%
営業利益14,4008.0%
減価償却費7,2004.0%
調整前EBITDA21,60012.0%

正常収益力分析の実施

詳細な調整項目分析

1.設備投資による減価償却費の調整

項目金額(万円)備考
新設備投資額24,0002022年度導入
年間減価償却費2,40010年償却
従来設備との差額+800年間増加分
生産性向上効果1,500人件費削減+品質向上
判定調整なし効果が費用を上回る

1.原材料価格変動の影響

項目2021年度2022年度2023年度
特殊鋼材価格(円/kg)100115125
価格上昇率+15%+25%
年間使用量(kg)50,00050,00050,000
影響額(万円)+750+1,250
販売価格転嫁率60%80%
未転嫁額(万円)+300+250

調整:2023年度の未転嫁部分250万円を加算調整

1.品質管理費用の調整

項目金額(万円)発生頻度調整額(万円)
ISO認証更新費用6003年に1回+400
年平均負担200
当年度超過分400+400

1.オーナー関連調整

項目現状(万円)適正水準(万円)調整額(万円)
社長報酬3,0002,200+800
高級車リース1800+180
個人的接待費1200+120
家族旅行費1000+100
合計+1,200

Y社の最終調整結果

項目金額(万円)改善率
調整前EBITDA21,600
原材料価格未転嫁分+250
品質管理費用超過分+400
オーナー関連調整+1,200
調整後EBITDA23,450+8.6%

サービス業の事例:システム開発業Z社

企業概要

項目内容
従業員数60名
主力事業中小企業向け業務システム開発
売上高6億円
株主構成創業者(現社長、55歳)が60%保有
M&A目的事業拡大のための資金調達

財務概要(直近3年平均)

項目金額(万円)比率
売上高60,000100.0%
営業利益6,00010.0%
減価償却費1,5002.5%
調整前EBITDA7,50012.5%

正常収益力分析の実施

詳細な調整項目分析

1.人件費水準の調整

項目Z社市場相場差額
エンジニア平均年収(万円)650580+70
対象人数(名)40
年間超過額(万円)2,800
付加価値創出効果14,400
判定調整なし効果が費用を大幅に上回る

1.システム投資の調整

項目金額(万円)効果期間調整額(万円)
開発環境刷新費用2,6005年間+2,080
年平均負担520
当年度超過分2,080+2,080

1.マーケティング費用の調整

項目金額(万円)効果期間調整額(万円)
ブランディング強化費用2,0003年間+800
年平均負担667
過去実績平均800
調整対象額1,200
平準化後調整額8002/3を調整+800

1.オーナー関連調整

項目現状(万円)適正水準(万円)調整額(万円)
社長報酬1,8001,400+400
関連会社外注費600450+150
残業代適正化0360-360
賞与水準改善0240-240
純調整額-50

Z社の最終調整結果

項目金額(万円)改善率
調整前EBITDA7,500
システム投資超過分+2,080
マーケティング費用超過分+800
オーナー関連調整-50
調整後EBITDA10,330+37.7%

業種別特徴の比較分析

項目製造業(Y社)サービス業(Z社)
主要調整項目設備投資、原材料価格、品質管理人件費、システム投資、マーケティング
調整の特徴物理的資産の影響大人的資産の影響大
投資効果の評価生産性向上、コスト削減付加価値創出、競争力強化
調整後改善率+8.6%+37.7%
留意点設備投資サイクルの考慮人材投資の効果測定

この比較から、サービス業の方が調整項目による改善効果が大きい傾向があることが分かります。これは、サービス業では人件費や無形資産への投資が多く、これらの調整による影響が大きいためです。

まとめ

正常収益力分析は、M&Aにおける企業価値評価の中核を成す重要な手法です。本記事で解説した内容を実務で活用するためのポイントを整理します。

重要なポイント

1. 体系的なアプローチの重要性

6ステップ・プロセスに従った段階的な分析により、調整項目の見落としを防ぎ、一貫性のある結果を得ることができます。各ステップでの具体的な作業内容と判断基準を理解することが重要です。

2. 業種特性の理解

製造業では設備投資や原材料価格変動、サービス業では人件費やシステム投資など、業種特有の調整項目を理解することが重要です。業界の特性を踏まえた分析により、より精度の高い正常収益力を算出できます。

3. 調整項目の適切な分類

以下の6つのカテゴリーによる体系的な整理が有効です:

  • 一時的・非経常的損益
  • 会計処理上の調整
  • 営業外・特別損益の組み替え
  • M&A関連調整
  • プロフォーマ調整
  • 中小企業特有の調整

4. 客観的な判定基準の活用

発生頻度、金額的重要性、事業関連性、将来継続性などの定量・定性基準を組み合わせた総合的な判定が必要です。グレーゾーンの項目については、複数の観点からの分析により適切な判定を行います。

5. 専門家の活用

公認会計士等の専門家による客観的で専門的な分析により、信頼性と説得力のある結果を得ることができます。M&A実務経験が豊富な専門家の活用が特に重要です。

実務での活用に向けて

正常収益力分析は、単なる計算作業ではなく、企業の事業内容、競争環境、将来性などを総合的に評価する高度な専門業務です。以下の点を意識して実務に取り組むことが重要です:

継続的な学習の重要性

M&A市場の動向、会計基準の変更、税制改正などの環境変化に対応するため、継続的な学習が不可欠です。最新の実務動向を把握し、分析手法の改善を図ることが重要です。

実務経験の積み重ね

理論的な理解だけでなく、実際の案件を通じた経験の積み重ねにより、調整項目の特定能力や判定精度を向上させることができます。多様な業種・規模の企業を経験することで、幅広い知見を獲得できます。

チームワークの重要性

正常収益力分析は、財務、税務、法務、事業の各専門家が連携して実施する総合的な作業です。各専門家の知見を統合し、多角的な視点から分析を行うことが重要です。

M&A市場の拡大と企業価値評価の重要性の高まりに伴い、正常収益力分析のスキルは会計士にとってますます重要な専門能力となっています。本記事で解説した理論と実務の両面からの理解を基礎として、より精度の高い企業価値評価を実現し、M&Aの成功に貢献することが期待されます。

本記事が、皆様の実務能力向上の一助となれば幸いです。

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