M&Aの「戦略立案・ターゲット選定」プロセスにおけるポイントと注意点

今回は、M&Aにおける「戦略立案・ターゲット選定」のプロセスにおけるポイントと注意点についてご紹介いたします。

M&Aの基本や全体像はこちらの記事をご覧ください。

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目次

戦略立案がM&A成功を左右する理由

M&Aの成否は戦略立案の精度に依存します。

2019年のPwC調査によると、戦略的整合性が明確なM&A案件は、そうでない案件に比べ統合後のROIが平均37%高い結果が示されています。

最初の戦略設計が不十分だと、後工程の交渉や統合で想定外のリスクが顕在化する可能性があります。

戦略立案の3大核心要素

1. 自社分析の徹底

SWOT分析とバリューチェーン分析を併用し、「何を補強すべきか」を明確化します。特に財務・人材・技術のギャップ分析が重要で、自社単独では達成不可能な領域をM&A対象として設定します。

実践ツール

事業ポートフォリオマトリックス(BCGマトリックス)
VRIO分析(価値・希少性・模倣困難性・組織)

2. M&A目的の具体化

「市場拡大」「技術獲得」「経営危機回避」など目的を定量化。特に重要なのが「必須条件」と「優先条件」の明確な区別です。

例えば「売上高20億円以上(必須)」「デジタルマーケティング部門保有(優先)」など基準を設定します。

3. シナジー設計の数値化

コスト削減効果や収益拡大効果を具体的に試算。

例えば「生産拠点統合で年間5億円の固定費削減」など、KPIを設定します。

ターゲット選定の5段階プロセス

段階実施内容主要ツール
ロングリスト作成300~500社から候補選定帝国データバンク・TDBダイレクト
スクリーニング必須条件で100社程度に絞り込み定量的評価シート
詳細調査財務・法務・事業の3軸分析デューデリジェンスチェックリスト
シナジー評価統合効果の定量化シナジーマトリックス
最終選定経営陣との文化適合性確認カルチャーアセスメント

重要ポイント:

データベース検索では「業種×従業員数×売上高」の掛け算条件を設定
スクリーニング段階で「除外基準」を明確に設定(例:赤字続き3期以上)
地域特性を考慮(地方企業の場合は取引先の地理的集中度をチェック)

失敗を防ぐ4つの注意点

1. 戦略的視点の喪失

「安価だから」「すぐに手に入るから」という短絡的な判断は禁物。

ある食品メーカーは赤字企業を安価で買収したものの、想定外の環境対策費用が発生し、最終的に買収額の3倍の損失を計上した事例があります。

2. カルチャーフィットの軽視

2023年のHarvard Business Review調査では、M&A失敗原因の68%が「組織文化の不一致」と報告されています。

経営陣の価値観・意思決定スピード・報酬体系の違いを事前に分析しましょう。

3. 財務リスクの見落とし

簿外債務や未払い残業代など隠れたリスクを発見するためには

・過去3期分の給与明細と労務監査報告書の確認
・主要取引先へのヒアリング実施

4. 専門家連携の不足

法律・会計・人事の専門家を早期から参画させることが重要です。

特に中小企業の場合は、地域密着型のM&Aアドバイザリーを活用すると、地元の事情に精通した適切な候補を提案してもらえます。

成功案例に学ぶ実践知

某地方製造業は、以下の戦略で海外企業の買収に成功

・自社の強み(特殊加工技術)を軸に補完技術を明確化
・東南アジア市場で特許を10件以上保有する企業を厳選
・現地パートナーと連携し、3段階の文化統合プログラムを実施。その結果、買収後3年で海外売上比率を15%→40%に拡大しました。

まとめ

M&Aの戦略立案・ターゲット選定は「経営戦略の具現化プロセス」です。データ分析と現場視点のバランス、専門家ネットワークの活用が成功の鍵となります。最初の設計図を精密に描くことで、その後のプロセスが劇的に円滑に進みます。

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